3年近く暮らした部屋と
さよならする
予想していたよりも
長く住むことになった
冷蔵庫も洗濯機も借りものの
仮暮らしのような
ふわふわした生活
鳥かごのなかで
いつもだれかを
待っているような
どこにも行っちゃ
いけないような
ここにいることが
しあわせなんだと
だれかのために
生きているのだと
そう思いはじめた瞬間
わたしはわたしの人生を
忘れてしまう
ファインダーに見惚れて
シャッターを押す自分を
忘れてしまう
ずっとだれかを
待ちつづけることが
わたしの人生なの?
あの頃の重たさを
知りすぎている
この部屋は
壁にも
キッチンにも
古い油が染み込んでいて
わたしを
元のわたしに
揺り戻そうとする
過去に積み重ねてきた
わたしの生き方に
ここで答え合わせをした
世界にたやすく染まり
自分の色を見失いがちな
わたしの在り方を
あなたは露わにした
産まれたての小鹿が
母鹿の仕草を追うように
あなたのように生きたいと
わたしの色で生きたいと
あなたを通じて
わたしを見つけた
気づくために
見つめるために
苦しい苦しい
あの時間は
必要だった
引っ越したいと
漠然と感じはじめて
自分のなかに
何かが生まれるのを感じた
ここは狭すぎる
もっと広い場所で
何かを産みだしたい
創りたい
見出したい
もっと感じたい
世界と繋がりたい
仮暮らしの気持ちで生きていたら
今という時間が蔑ろになる
冷蔵庫も洗濯機も
いちばん欲しいものを買おう
わからない未来にあわせて
今の自分を縮こまらせないように
二度と戻ってこない
今を精一杯生きよう
これがわたしの答え
この新しい部屋が
わたしにとっての
真っ白いキャンバスだとしたら
わたしはここに
今のわたしが思う
いちばんきれいな色を載せたい
木漏れ日と小さな畳
星柄のガラスと
わたしの世界
あなたがあの日
一生懸命つくっていた
音楽を
ほんとうのところ
わたしはしばらく
許せなかった
すこしずつ
わかってきたよ
離れることで
近づいていく
あなたの音楽は
あなただけの部屋で
あなたの灯火
だれも入れない
わたしだけの世界で
いちばん美しい色で
わたしを描く
あなたにいちばんに
聴かせたいから
うまく伝えられなくて
ごめんね
そんな自分勝手な
わたしの気持ち
だれよりも自分勝手な
ねえきっと
あなたには
わかるでしょう