listen こえびメモ

リスン・デザイン こえびのブログ

日々感じていることをつらつらと書きます。

女の子とお父さんの親子

 

その日はなぜか

女の子とお父さんの親子を

よく見かけた

 

 

 

 

電車にふたりで並んで座って

お父さんの隣で

足をぶらぶらさせている

 

退屈まぎれに両手をつかって

うれしくて振り回した娘の手が

隣の人に当たりそうになるのを

ぎゅうとかたわらに寄せて

こら、と手のひらでポンポンする

 

女の子の頭は手のひらにすっぽり収まるほど小さく

そこから見上げた原風景としての父の手は

どれほど大きいだろうと思う

 

さっきのポンポンの意味など知らぬまま

女の子は夢中で

手のひらでおしゃべりを続ける

 

 

 

 

 

 

車道のわきを

手を引いた父の手をほどいて

女の子がたたたと走りだす

 

父はあわててそれを追いかけて

腕をつかもうとするのだけど

膝より下でバタバタと動く子どもの腕は

ピチピチのお魚みたいに

なかなか捕まえられない

 

がんばれ、と思いながら

まだどこか幼さの残る

お父さんの慌てた顔を見つめる

 

わたしの父もこんなふうにわたしを追いかけたのだろうか、と

すこし想像してみたりする

 

 

 

 

 

桜並木の下

お父さんに肩車してもらって

花びらに手を伸ばす女の子の

ほがらかな笑い声が

 

細い髪の毛が

やわらかく光に透けて

まるで天使のようだと思う

 

ただ幸せに生きていてくれることだけを

まわりの人は願うのだろう

 

たいせつなお父さんの宝物から

そのたいせつさが溢れて

 

その様子があまりにも愛おしく

ぽろぽろと涙がこぼれてくる

 

 

 

 

 

わたしは長いこと

女の子という感覚が

よくわからなかったような気がする

 

なんてやわらかくて愛らしくて

幸せな世界だろうと思う

 

ぎゅうとサラシを巻いて

男らしく歩いているうち

そのやわらかな感触を

すっかり忘れていたけど

 

こころが踊るような

愛おしさが

波紋のように広がっていく

 

 

 

 

 

 

ただ彼女が笑うことで

空気もいっしょに

うふふ、と和んでいく

 

子どもたちはいつも

あまりにも自然に

本質を差し出してきて

 

なぜこんなに簡単なことができないの、と

無邪気に笑いながら

 

 

 

 

 

 

 

ただ

甘いお菓子が好きで

かわいいものが好きで

花と木が好きで

 

わたしの美しい世界を

ただ

描いて遊んでいること

 

いつも笑って

しあわせでいること

 

 

 

 

 

 

わたしが世界から

望まれていたことは

ただ

それだけだったのかもしれない

 

 

 

 

 

なんて簡単なこと

なんて難しいこと

 

頭で考えてもわからない

ただ

気持ちいいということ

嬉しいということ

 

 

 

 

 

 

あなたははじめから

わたしのなかの女の子を

愛おしそうにただ

見つめていたような

 

そちらはあぶないよ

ほらお空がきれいだよ

そばにおいで

 

頭をポンポンと

なでていたような

 

 

 

 

 

 

 

わたしはとても幼いし

目の前のことに一生懸命で

そのポンポンの意味は

あんまりわからないけど

 

車道の外側にそっとまわるように

 

父はさりげなくわかりづらく

わたしを愛してくれている

 

 

 

 

 

 

 

そうして一緒に

歩いていくうちに

 

いつのまにか

無事におうちに

たどりついていて

 

とっても短いあいだの

ながいお散歩が終わり

 

おかあさんの作った

おいしいゆうげの匂いがする