今年の夏のはじまりは
いろんなものをひっくり返してゆき
前後はずっとぼんやりして
自分と世界がずれたような違和感がすごかったのだけど
ダイヤルを右に回したり左に回したり
一瞬、周波数はキューンと乱れ
時間をかけてすこしずつ
また新しいところに
チューニングがぴったり合う
だいじょうぶ、前よりもずっと
音はクリアに聞こえる
奥行きも広がっている
聞くのをやめて
ぼんやりと耳を開いているから
ちゃんと全体が聞こえるのだ
ここには
雨だれの跳ねる音と
キーボードをはじく音しか
存在しない
この静けさはおそらく
不可逆的なもので
きっともう以前のところには戻れないだろう
「Less is More」
ミース・ファン・デル・ローエの言葉が
心の中にぽつんと浮かんでいる
限られた人数の
こころから愛しているひとと
まるで自分の身体みたいに
愛おしい洋服と
これからの人生をともに
旅したい靴
今のわたしと心が通いあう本と
iPhone一台
ほんとうに好きなものだけを
ほんとうに愛おしい瞬間だけを
わたしはこれからもっとストイックに
追求したくなってしまった
年末にひょんなことで
LINEがぜんぶ消えてしまったのだけど
そりゃまあ、悲しかったのだけど
一気に肩の荷が降りたような
気持ちよさもあったりして
その時の感覚をよく思い出してる
おそらく今まで生きてきた中で
こんなに自分の内側が
静かになったことはない
これからまた
新しい世界が始まるのだ