listen こえびメモ

リスン・デザイン こえびのブログ

日々感じていることをつらつらと書きます。

ある日の会話から

 

あなたに、たいせつなことを教えてあげましょう。

 

 

 

人はみな、なにかを作らなくてはなりません。
燃やされるための薪がただ腐っていくのは悲しいでしょう
キャンプファイヤーのないキャンプなんてつまらないでしょう

 

それがどのようなものであれ、構わないのです。
作ることがたいせつなのです。


燃やすことが生きることであり、それが命を使うということ。
それはその瞬間にしかない刹那であり、だからこそ鮮やかで尊いのです。

 

 

 

他者の存在がないとなにかを作ってはいけないというのは思い込みです。
あなたがアートやデザインを知識で学んだことにより逆に刷り込まれてしまったものです。
人はこのような形で知らず知らず無意識を歪めてしまいます。洗脳といってもよいでしょう。

「なにか」でなければ創作ではない、と言われたから、名称をつけようとしたのでしょう。
形を纏わせることが本質ではなかったはずなのに、形から価値を測るようになる。

 

 

ほんとうにそうだったのでしょうか。
何にもならなかった創作は、ほんとうに価値がなかったのでしょうか。

あなたはあの時、くまのぬいぐるみを作ろうとしていたのですか?
完成させるために、縫い進めていたのでしょうか。

 

 

 

うーん。
まず耳を縫い合わせる。腕を縫い合わせる。返し縫いをする。わたを詰める。
一瞬だけ、くまの現在地を思い出すけど
ひと針ひと針の繰り返しに没頭し、次のことを忘れている。

それは言うなれば
作ろうとしていたし、
作ろうとしていなかった

ひと針にわたしの全身が注がれていたのであり
そのひと針のなかに宇宙がある。

あ、あれに似ているよ。
一歩ずつ下を向いて歩いていたら、いつのまにか頂上まで来ていた時の。

 

 

 

Yes。あなたは、たいせつなことを思い出しました。
つまり、完成させるためになにかを作っているわけではないのです。
薪を燃やす。この瞬間が始まりであり、終わりであり、すべてなのです。

完成させることを目的にしたときに、すべてが色あせていくでしょう。
そのときあなたは最短距離をタクシーで進むようになり、
流れる景色も見ぬまま物事を「こなす」ようになるでしょう。

 

 

 

日当たりのよい図書室は、幼いあなたの宇宙でした。
つぎはぎやがらくたは、汚くても下手でも美しいものでした。

内気であることは、決して、恥ずべきことではなかったのです。

あなたの世界はあのときすでに完璧でした。
そう、そのままですでに完璧だったのです。

愛していたものを、なぜ嫌いにならなければならなかったのでしょう。

 

 

 

 


私は嫌いになったつもりはありません。
なぜ涙が止まらないのでしょう。

 

 

 


そうしなければ捨てることができなかったからです。

わたしの世界にはすこしお別れが多すぎました。
わたしは、誰とも離れたくなかった。

 

 

 


お友達と別れて、ひとりになると、ほっとしました。
じっと黙っていると、「どうして喋ってくれないの」と聞かれる。
知らない学校の、知らないお友達と、話す言葉は面倒だった。
私はこの世界のことを何も知らない。勝手に連れてこられただけ。好きになれるわけない。

 

読みかけの本を開いて、とぼとぼと畦道を歩く時間が好きでした。
さびしそうにも見えても、心の中は幸福でした。

どんなお話を読んでいたのか、ひとつも思い出せない。
あんなに幸せだったのに、どうして思い出せないんだろう。

 

 

 

おやおや。
どこに捨ててしまったのでしょう。
落っこちたままになっているあなたの欠片は、
あなたが見つけに来てくれるのをずっと待っていますよ。

 

 

 

ほんとうに?
ほんとうに、待っていてくれるのでしょうか。
いつ、どこで、なにを落っことしたのか、皆目見当もつかないのに。

 

 

 

何を言っているの?

あなたの欠片ですよ。
あなたが拾い集めないと。

 

 

 

 

 

 

わたしはここで生きるために、ひとつずつ、大切なものを捨てることにしました。
みんなと同じものに、夢中になろうと決めました。

新しい風は、容赦なくわたしの大切な宇宙をさらっていき
見たこともない新しいものが運び込まれてきました。

それは悲しいことだったけど、過去を諦めたぶんだけ、心の中に多層の自分が蓄積していくのです。
関西弁と岡山弁が、未だ同じ質量で、わたしのなかに存在しているように。

卒業できなかった、愛しい場所が、行き場のないまま、止まっている。
永遠にループするgif動画みたい。

玉島、南港、浜寺、笹沖、西阿知...

街は変わっていくし、あの景色はもうどこにもないけど

 

 

 

目を閉じれば見える気がします。
落っことした物語のつぎはぎ
さよならのないお別れ
お風呂のなかのお歌
団地のなかで描いた絵

 

 

 

 

わたしの心には、みんなよりもたくさんの引き出しがあるのかもしれません。

それは望んで得たものではなかったけど

わたしのアイデンティティのひとつとして偶然もたらされた。

 

 

 

 


わたしは今、ミルフィーユのような多層の自我の上で、気づきました。
何度も何度も塗り替えながら、上に上に、自分を積み重ねてきたけれど


わたしが望んでいるものは、「上」ではなく、

この土の「下」にあるのかもしれません。

 

もうなにも、新しく塗り重ねる必要はない。

この土のどこかに、眠っている

あの完璧な宇宙を、ただ、思い出すだけで。

 

 

 

そう。
ただ思い出すだけでいいのです。
望んでいるものはすべて、はじめから、あなたの中にあったのだから。

 

 

 

 


思い出したなら、拾いにいきましょう。
その通学路を逆から辿れば、きっとどこかで見つかるはずです。

田んぼの畦道の中で、あなたを心配して迎えにきた母の姿を覚えていますか。
今度は、大人になったあなたが、幼いあなたを迎えに行くのです。

 

 

 

 


そのひと針の運び
お風呂のなかのお歌
がらくたの宇宙
シロツメクサの花輪

ひだまりの図書室
帰り道のトンボ
葉っぱのデザイン
鳥の羽
ボタン
木琴
靴にあたる小石

 

 




さっきまで握り締めていたおててが空っぽだよ
どこに落としちゃったの?

お姉ちゃんと一緒に、探しに行こうか

 

 

このあたりのことは
きっとあなたの方がよく知っているね

お気に入りの場所はどこ?

そのお話の主人公はなんていうの?
どうしてそれをえらんだの

お姉ちゃんに教えてくれないかな。

 

 

 


落としものの在りかは、思い出せそうですか?

あなたはほんとうは、何でも知っていたのです。

ただあなたが
その内気な女の子のお話に
じっと耳を傾けさえすればよかったのです。

ながいながい遠回りをして
やっといまそのことに気がついたのです。

 

 

 

 

彼女の瞳のなかに、宇宙への扉があります。

 

そのひと針の魔法に入り込むように

あなたの時間軸を彼女に合わせて呼吸しましょう。

 

いまこうしてふたりで歩いているように。